近藤昭彦(千葉大学名誉教授)
ZOOMによる双方向講義で実施します。よろしくお願い申し上げます。 PCの前で一日中話を聞くのは過酷な試練です。そこで、なるべく双方向の対話を重視したいと考えています。資料や演習の材料はこのページに置いてありますので、いつでも参照してください。
【地理的な見方とは】 昨今水害が頻発していますが、治水施設に頼りすぎない治水、安全の確保は可能なのだろうか。これを考えるためには時間軸(歴史軸)と空間軸(地域性)で捉えると良いと思います。<時間軸>ハードによる治水は経済成長のもと、発展する都市域を守るために建設されました。では、これからも経済成長は継続するのだろうか。新しい社会のあり方も考えなければならないのではないか。<空間軸>堤防が建設されると治水安全度が高まり、人が集まります。堤防のそばの土地の性質はどうなっているのだろうか。そこは沖積低地です。すなわち川が作った地形です。そこでは何が起こりえるか。また、上流と下流の関係性はどのように考えたらよいか。地理学がヒントを教えてくれます。一方、人が住むと、そこは“ふるさと”になります。危なくても住みたいのです。土地の性質を知り、諒解しながら暮らし、世代スケールの時間をかけて、土地に適応していく営みが必要です。時間、空間、そして人の諒解は人と自然の関係を扱う地理学の課題でもあります。もちろん、異見もあると思います。そこは対話を通じて合意を形成していかなければなりません。経済成長の時代はシンプルな原理で対応することができました(お金で解決できた!?)。しかし、縮退(それは成熟でもある)に向かう社会では考え方も多様になります。対話と実践を積み重ねて安全・安心な社会を創っていかなければならないと思います。そのための知識を学びましょう。
【追記2023】 河川工学者の大熊孝は二つの学問のあり方を提示しています。ひとつは進歩型の「真理探究型科学」であり、もうひとつは矛盾認知型の「関係性探究型科学」です。地理学は関係性探求型科学であり、その中にあらゆる事象の経験や知識が含まれ、それらの間の関係性を探究する学問です。知識や経験の容れ物の大きさは人によってことなり、みつけることのできる関係性も容器の大きさによって限られるでしょう。でも、地域、それも暮らしがある地域を対象とすると、ひとは総合的、包括的、俯瞰的に地域を捉えることができるのではないでしょうか。そうすると、暮らしのなかで災害に備える力も養うことができます。現代社会の大問題は、ひと、自然、社会が分断されていることです。この分断を修復し、自然の営みを諒解し、備えて暮らすことを地理学ではめざします。
【追記2024】 昨今の頻発する災害は、日本人にとって日常となり、いよいよ“ひとごと”から“わがこと”に変わりつつあるのではないだろうか。ハザードマップも十分に普及し、自分から求めれば防災、減災に関する情報はすぐに手に入れることができます。それでも多くの日本人にとって災害はテレビやスマホの画面の向こう側にあるもので、画面を消せば意識からも消えてしまう、そんなものなのかも知れません。そんな時代に災害に関わる技術者は現場に何を伝えれば良いのでしょうか。それは、土地への愛と、土地で暮らすことの責任なのではないでしょうか(くさい表現ですが)。土地とは“ふるさと”です。ひとは“ふるさと”のコミュニティ-における連帯によって安全と安心を手に入れます。誰かが自分と家族の安全を確保してくれるわけではない、そういう時代になったことを理解しなければいけないのではないだろうか。土地について知ることがこの演習の目的ですが、土地を知り、災害(ハザード)を知り、災害(ディザスター)を予見し、諒解して、備えて暮らす。そんな時代なのだと思います。
序論
災害というと発生時の緊急対応といったイメージが強いと思いますが、災害看護学(千葉大学では博士課程のコースがあります)では災害サイクルとして、災害発生後の急性期、亜急性期、慢性期、 復興期、静穏期、前兆期と進む時間軸の中で災害を捉えます。これは災害を地域の視点で捉えていることを意味しており、地理学の視点に非常に近いと思います。地理学は災害サイクルのすべてのステージに関わることができますが、特に復興期から静穏期、前兆期において役立つ知識、経験を提供できます。それは人を知り、自然を知ることによって、人と自然の分断を修復し、安全・安心な地域を創ることに貢献できるからだと考えています。
地理情報・空間情報の基礎
世の中、どんどん進歩して、このスライドの内容更新が追いつかなくなっていますが、 地図、空中写真の入手方法、繰り返し作成、撮影されることによって歴史情報となった地図、空中写真から土地の性質を読み取り、ハザードを予見する知識、智慧を磨いてください。 下の方に地理空間情報を提供するホームページのリンクを置きましたので、活用してください。
地理学は「関係性探求型科学」(大熊孝)です。 物理や数学では原理や法則を学んで問題を解こうとします。その方法論は地域における人と自然の相互作用として起きる災害でも万能でしょうか。事象は地域における様々な要因(自然要因、人間要因)が関係し合って生じています。様々な要素、要因をまず認識し、それらの間の関係性を見つけることにより、安全で安心な土地、すなわち、ふるさとを形成することができるかもしれません。地理学的な視座・視点・視野を身に付けてください。
空中写真の実体視練習
空中写真の実体視からは 実に様々な情報を抽出することができます。評価社会の中では、何がわかるのか列挙してみろ、という指示を受けやすいのですが、いくつか列挙するだけでは空中写真の価値を矮小化するだけです。脳みその中に地理学の知識、経験が蓄積されるほど、空中写真の価値は高まります。まずは練習あるのみ。浮かび上がって見えたときの感動を味わってください。
【追記2024】空中写真の判読は地形解釈の基礎中の基礎です。ただし、最近はきちんと判読できる技術者は少なくなっているような気がします。それは地形に対する愛が乏しくなっていることを意味するのだろうか。オンライン演習では地理院地図の陰影起伏図(標高・土地の凹凸メニュー)を駆使して、地形判読を試みてください。
地理空間情報を提供するページ (フレーム内で表示できない場合は、右クリックして新しいTAB、Windowで表示してください)
メニューが豊富になってきました。左画面左上の[地図]アイコンから様々な情報を探し出してください。また、メニューの[ツール]からは計測や表示ができます。いろいろ試してください。 最近追加された、自然災害伝承碑は思わぬ気付きがあるかも知れません。
これは活用できます。特に米軍写真(第二次世界大戦末期~1950年代)は高度経済成長期以前の国土の姿を記録しています。たとえば、アメリカ公文書館で得られた伊勢湾台風直後の空中写真がモザイクされ(名古屋大学、日本地図センター)、公開されています。当時の記録とともに眺めると、災害を“わがこと化”して疑似体験できるでしょう。
空中写真判読によって作成された地すべり地形分布図がデータベース化されています。地すべりは一度形成されると長期間にわたり活動を続けます。豪雨や地震による地すべりも、既存の地すべりの再活動がほとんどです。 地盤災害の可能性だけでなく、人と自然の関係性を知るためにも重要なデータベースです。
小縮尺の地質図ですが、簡単な説明がポップアップで表示され、土地の性質を知るのに役立ちます。
地理院地図の画面左上にある「地図の種類」から、その他>他機関の情報>土地分類基本調査(土地履歴調査)-国土政策局、と進むと主題図を閲覧することができます。
この20年ほどでハザードマップの整備は進みました。重ねるハザードマップは日本の国土の性質を学ぶことにも役立ちます。
これはすごいシステムです。明治初期以降の地形図を現在の地形図と比較できます。
水害
洪水について知っておきべきことは、①水は低きにつく、②流れる水は慣性を持つ、③川は流れて谷や平野を造る、④川は死なない、⑤たくさん食べれば(雨が降れば)たくさん出る。ふるさとで諒解して備えて暮らすために知っておきたいこと。
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流域治水にはふたつの系譜があるように思います。ひとつは①滋賀県の流域治水、もうひとつは②国交省の流域治水プロジェクトです。両者はその出自に思想の違いがあると思われます。しかし、将来は違いがなくなる方向に進んでいくとよいと思います。上記リンクは2021年度に水文・水資源学会が開催した2回の水文学フォーラムの資料です。①では滋賀県流域治水対策室の山田さんと、東近江市葛巻町の方々に登場頂き、解説していただきました。②では東京大学名誉教授の虫明功臣先生に表記の話題でお話頂きました。
土砂災害
斜面はいずれ形を変える。ゆっくりとではなく、あるとき突然に。永い時間をかけて、山は平野に戻る。 自然の営みと、人の営みの間で、どのように折り合いをつけるか。まずは自然の営みを知りましょう。
その他の災害(海岸侵食、地盤災害)
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リモートセンシング画像判読
原子力災害
課題(静岡大学受講生向 〆切:11月16日(土) 近藤(kondoh(at)faculty.chiba-u.jp)までメールでお送りください。その際、件名に【地理学演習】と入れてください。
関心地域、あるいは関心地域の災害事例をひとつ選択してください。その地域の土地の性質、土地利用の変遷等を記述し、予見される災害あるいは実際に発生した災害との関係性について説明してください。
質問がありましたら、近藤まで遠慮なく連絡ください。
質問は近藤(kondoh(at)faculty.chiba-u.jp)まで。