担当:近藤昭彦
【第1話】地球上の水の分布・循環・変動 |
【第2話】地表面における水とエネルギーの分配 |
【第3話】土壌水の不思議 |
【第4話】地下水の遙かな旅路 |
【第5話】台地と谷津-水循環と地形の相互作用(自習) |
【第6話】川と人間 |
【第7話】雨水が川になるまで |
【第8話】森林の役割 |
【第9話】水にラベルをつける-環境同位体水文学 |
【第10話】特定地域の水文学 湿潤地域 |
【第11話】特定地域の水文学 乾燥地域 |
半年間、「人間活動と物質循環Ⅰ(大気と水の循環)」を担当します。よろしくお願いいたします。難しい講義名ですが、水文学(hydrology)の基礎について話します。ちょっと耳慣れない科目名だと思いますが、水循環の科学であり、水循環と社会の関係もその射程に含まれます。水資源、水害、水汚染、といった対象を考えるとわかりやすいと思います。日本は“湯水のように使う”という言葉があるように、水が豊富で、あって当たり前という感覚はありませんか。でも人が生きていくために不可欠な資源が水です。水資源の少ない諸外国では水文学はメジャーな科学の一つです。当たり前のようにある水でも枯渇、汚染、水道システムの老朽化、といった問題のため、持続可能性が危ぶまれています。ちょっと難しいかもしれませんが、がんばって勉強してください。わからないことは質問すること。講義の善し悪しは、シラバス通りにやったか、なんてことではなく、どれだけ学生のみなさんと相互作用ができたか、と言うことに尽きると思います。質問を待っています。
2024年度前期レポート課題(予告)
平坦な地表面の上にあなたは立っています。この時、地下水面は地表面から2mの深度にありました。おっと、雨が降り出したようです。しばらくすると所々に水たまりも見えてきました。この時に地表面近傍で生じている水文学的な事象についてA4サイズ1枚以内で記述してください。
なお、地下水については、地形・地質等の条件を設定して、地下水の流れと流出等について記述してください。ただし、地下水流動の時間スケールは長く、異なる時間スケールの現象を含むことになりますが、意識して記述してください。
場の条件(地質、土壌層序など)と時間(季節の設定、時間スケールなど)はみなさんが自由に設定してください。ナラティブ、すなわち物語を語ることによって水文学的事象を総合的に捉えることができます。
●提出期限:7月31日
●提出場所:メール kondoh@faculty.chiba-u.jp まで(アドレスは半角にしてください)。
注)メールの件名に【水文学入門】と入れてください。受信したら確認メールを返信します。
2024年前期 レポート評価における重点事項
◎科学的な記述を重視しました。講義で伝えた水文学の用語をきちんと使えることは重要な観点です。言葉で伝えると言うことは、用語の共通の意味が共有されていることが前提になければなりません。
◎論理的な記述を重視しました。“私は~思う”というニュアンスの表現はレポートとしてふさわしくありません。学んだ水文素過程を考慮して、こう考えるのがいちばん確からしい、という文章(仮説)を作成する訓練をしておきましょう。
◎水循環の場の条件をきちんと記述できているか。身の回りの環境(自然のあり方と、人間との関係)をきちんと認識することを意識しましょう。
⇒地理院地図等を使って、当該の場所の地形とその機能を理解した上で考えよう。
◎ 水循環に対するステレオタイプ的理解を乗り越えよう!まずは、physically-based, process-orientedの観点を重視して、水循環を理解する(講義における主要観点)。次に来るのが human-dimension の領域における水循環の理解です。
2024年度前期 レポート講評
◎科学的な記述を重視しました。講義で伝えた水文学の用語をきちんと使えることは重要な観点です。言葉で伝えると言うことは、用語の共通の意味が共有されていることが前提となります。
◎論理的な記述を重視しました。“私は~思う”というニュアンスの表現はレポートとしてふさわしくありません。学んだ水文素過程を使って、こう考えるのがいちばん確からしい、という文章を作成する訓練をしておきましょう。
◎ あまり時間を費やしませんでしたが、ホートンの浸透理論に基づく説明がたくさんありました。ホートンの浸透理論は直感的にわかりやすいのですが、現実世界に適用できるのか、注意する必要があります。
⇒後期の講義「水流発生機構」で取り上げます。
◎水文素過程の関係性をプロセスに基づいて記述できたら“はなまる”です。雨が降ったから水たまりができる⇒降水の後、どのようなプロセスが生じているか。雨水が浸透して地下水面が上昇する⇒そこにどんなプロセスがあったか。科学的に考える習慣を身につけてください。
◎アスファルトの地表面を仮定したレポートがたくさんありましたが、興味深いことでもあります。これは都市に暮らす人の自然観を反映しているだろうか。もちろん、水文プロセスが論理的に記述できていればきちんと評価しました。
◎地層や地形の名称は特定の地域固有のものがありますので、注意してください。
◎名前が同定できないレポートがありました。点数を見て自分かと思った方は連絡ください。また、レポートについて対話したい方、水文学について理解を深めたい方は連絡ください。
質問コーナー
リニアメントの話に関する質問を頂きました。リニアメントとは、空中写真(航空写真)や衛星画像上に現れた直線上の構造です。断層や節理といった地質構造に対応することが多いので、地下水、温泉や鉱床の探査に使われています。この画像は航空機搭載レーダー(SLAR:Side ooking Airborne Radar)で撮影された広島周辺の画像です(NEDO撮影)。 たくさんの直線上の構造、リニアメントが認められます。それらの多くは花崗岩の節理ですが、リニアメントが交差するところに温泉や、熱水鉱床があることがわかります。
いろいろなことを話しました。スライドの最後まで到達できませんでしたが、まずは一通り読んで、わからないことがあったら質問をください。 これからもこんな感じでやっていきます。
最初に小麦の話をしました。小麦はヨーロッパの主食。冬小麦が主体ですが、種まきは秋です。日本の主食は米。苗作り、移植は春です。新しい年の営みが始まるのはヨーロッパは秋、日本は春。だから、日本の学校は春に入学する。これで良いんじゃない。
講義中に触れたキーワード
科学に問うことはできるが、科学だけでは答えることのできない問題。お手軽な参考文献としてこれを紹介します。著者の小林傳司(ただし)氏の著書「トランス・サイエンスの時代―科学技術と社会をつなぐ」(NTT出版ライブラリーレゾナント) (NTT出版ライブラリーレゾナント 35) を図書館でさがしても良いでしょう。トランス・サイエンスを乗り越える唯一の方法は「対話」なのだと思います。
「対話」を実践する活動を紹介します。福島ダイアログ。福島から世界へ活動が広がってきました。
外のペデストリアンに出て、日の光を浴びてください。暖かいでしょう。そもまま水辺の橋をわたり、草原に移動しましょう。気温は変わりましたか。わからなかったらしゃがんでみましょう。 少し涼しく感じると思います。それは、地表面に到達した太陽の光が空気、地面、蒸発に使われる割合が変わるからです。これを熱収支といいます。
いろいろな地表面の熱収支の違いがその場所の気候を創り出します。場所が集まって地域ができ、地域が集まって世界ができます。世界の気候もひとが暮らす様々な場所の熱収支の集まりで形成されます。身近な場所の理解から世界が見えます。
ソーンスウエイト法とペンマン法のCプログラム
昔々書いたCプログラムです。参考にしてください。
あまりにも身近で、気にしたことはなかったかも知れません。土壌の中の水の動きは実は不思議。特に毛管水帯の性質は勉強しておくと役に立ちます。古墳の中の遺物はなぜ千年以上も保たれたのか。雨の後、地下水面が上がっても、それは降雨前からそこにあった水です。水分子の実質的な動きと、見かけの動きは大分異なります。少し難しいかも知れませんが、その時は質問してください。
地面に穴を掘り、たくさんの穴を空けた箱を埋めます。おっと、雨が降ってきました。雨水が浸透していきます。さて、箱の中に水は溜まるでしょうか。
上記の資料は旧バージョン。新しい講義資料をここに置きました。地下水に対するイメージをバージョンアップできたでしょうか。目に見えない水であるがゆえに、その価値を保つ営みを疎かにしてしまった水といえるのではないでしょうか。地下水循環の性質を知り、保全しながら恵みを最大限に受け取れる社会を築きたいと思います。
上記の講義資料は旧バージョン。7月5日にNPO法人日本地質汚染審査機構イブニングセミナーとして「ダイナミック地形学試論-下総台地の水文地形-」というタイトルで講演します。その資料をここに置きましたので、ここを参照してください。
川との関係性を保つこと、それがこれからの時代の暮らしにとって大切なことだと思います。これからの時代とは高度成長から低成長、そして成熟に向かう時代です。力尽くで川を支配することはこれからの時代のやり方ではないと思います。川との関係性を保ち、共に生きる暮らしをめざす時代がやってきたと思います。
流域治水に関する情報
今日の話題は今まで意識したことのなかった現象なのではないかな、と思います。山腹斜面に雨が降ったとき、その水はどのような過程を経て川の水になるのか。実は多様な現象が起きています。そのことは物質(例えば、投棄された汚染物質)の移動を考えるときに決定的に重要な認識になります。また、雨が降ると川の流量は増えます。増えた水はその時に降った雨水なのでしょうか。自然流域では流量が増加した分はほとんど降雨前から流域のなかにあった地中水なのです。もちろん、都市化された流域では雨水が直ちに流出してきます。これらのことを知り、川との会話を楽しんでください。
森林には歴史がある。人間との関わりのなかで現在の森林のぞんざいができあがってきた。歴史を知ることにより、未来における人と森林の関係性について考えてください。そのとき、森林の機能に関する科学的な成果を知った上で、人と森林の関係がよりよくなるにはどうしたら良いのか、考え続けましょう。
水分子を構成する1Hと16Oには2H、3Hおよび18Oという同位体が存在し、水分子を構成しますが、それは水にラベルをつけることになります。同位体の存在比は気温や降水量といった気象要素によって変わるとともに、もとは降水である地下水は涵養時における気候を反映しています。それは地質時代に遡ることもできます。さて、水の同位体組成を調べると何がわかるのでしょうか。
水循環に関する素過程を学んだ後は、世界の様々な地域の特徴について学んでください。物理は自然現象を理解するために必要ですが、物理だけでは現場の水文現象を理解することはできません。地域の地理的特徴を知る必要があります。
湿潤地域について学んだ後は、乾燥地域の特徴と水循環について学びましょう。湿潤地域と乾燥地域の特徴が理解できたら、世界各地の水循環について調べてみましょう。
近藤の連絡先は kondoh@faculty.chiba-u.jp(半角にしてください)