担当:近藤昭彦
【第1話】地球上の水の分布・循環・変動 |
【第2話】地表面における水とエネルギーの分配 |
【第3話】土壌水の不思議 |
【第4話】地下水の遙かな旅路 |
【第5話】台地と谷津-水循環と地形の相互作用(自習) |
【第6話】川と人間 |
【第7話】雨水が川になるまで |
【第8話】森林の役割 |
【第9話】水にラベルをつける-環境同位体水文学 |
【第10話】特定地域の水文学 湿潤地域 |
【第11話】特定地域の水文学 乾燥地域 |
【第α話】いろいろな話をします |
2024年度後期「水文環境モニタリング」は前期「人間活動と物質循環Ⅰ(大気と水の循環)」の続編として水文学の話をします。前期で水文学の最も基礎的な部分について話しました。後期はいろいろな現象、いろいろな地域の水文について話そうと思いますが、個別の地域に対応できる水文学こそが“役に立つ”水文学だと思います。通常の科学は一般性、普遍性の獲得をめざしますが、“現場”ではそれらは理解のベースに置くもので、その上にある個別性の理解が現場における問題の理解、解決につながります。みなさんには高みで格好の良いことを言うのではなく、現場で力を発揮できる実践者になってほしいと思います。わからないことは質問すること。講義の善し悪しは、シラバス通りにやったか、なんてことではなく、どれだけ学生のみなさんと相互作用ができたか、と言うことに尽きると思います。
いろいろなことを話しました。スライドの最後まで到達できませんでしたが、まずは一通り読んで、わからないことがあったら質問をください。 これからもこんな感じでやっていきます。
最初に小麦の話をしました。小麦はヨーロッパの主食。冬小麦が主体ですが、種まきは秋です。日本の主食は米。苗作り、移植は春です。新しい年の営みが始まるのはヨーロッパは秋、日本は春。だから、日本の学校は春に入学する。これで良いんじゃない。
講義中に触れたキーワード
科学に問うことはできるが、科学だけでは答えることのできない問題。お手軽な参考文献としてこれを紹介します。著者の小林傳司(ただし)氏の著書「トランス・サイエンスの時代―科学技術と社会をつなぐ」(NTT出版ライブラリーレゾナント) (NTT出版ライブラリーレゾナント 35) を図書館でさがしても良いでしょう。トランス・サイエンスを乗り越える唯一の方法は「対話」なのだと思います。
「対話」を実践する活動を紹介します。福島ダイアログ。福島から世界へ活動が広がってきました。
外のペデストリアンに出て、日の光を浴びてください。暖かいでしょう。そもまま水辺の橋をわたり、草原に移動しましょう。気温は変わりましたか。わからなかったらしゃがんでみましょう。 少し涼しく感じると思います。それは、地表面に到達した太陽の光が空気、地面、蒸発に使われる割合が変わるからです。これを熱収支といいます。
いろいろな地表面の熱収支の違いがその場所の気候を創り出します。場所が集まって地域ができ、地域が集まって世界ができます。世界の気候もひとが暮らす様々な場所の熱収支の集まりで形成されます。身近な場所の理解から世界が見えます。
ソーンスウエイト法とペンマン法のCプログラム
昔々書いたCプログラムです。参考にしてください。
あまりにも身近で、気にしたことはなかったかも知れません。土壌の中の水の動きは実は不思議。特に毛管水帯の性質は勉強しておくと役に立ちます。古墳の中の遺物はなぜ千年以上も保たれたのか。雨の後、地下水面が上がっても、それは降雨前からそこにあった水です。水分子の実質的な動きと、見かけの動きは大分異なります。少し難しいかも知れませんが、その時は質問してください。
地面に穴を掘り、たくさんの穴を空けた箱を埋めます。おっと、雨が降ってきました。雨水が浸透していきます。さて、箱の中に水は溜まるでしょうか。
上記の資料は旧バージョン。新しい講義資料をここに置きました。地下水に対するイメージをバージョンアップできたでしょうか。目に見えない水であるがゆえに、その価値を保つ営みを疎かにしてしまった水といえるのではないでしょうか。地下水循環の性質を知り、保全しながら恵みを最大限に受け取れる社会を築きたいと思います。
上記の講義資料は旧バージョン。7月5日にNPO法人日本地質汚染審査機構イブニングセミナーとして「ダイナミック地形学試論-下総台地の水文地形-」というタイトルで講演します。その資料をここに置きましたので、ここを参照してください。
川との関係性を保つこと、それがこれからの時代の暮らしにとって大切なことだと思います。これからの時代とは高度成長から低成長、そして成熟に向かう時代です。力尽くで川を支配することはこれからの時代のやり方ではないと思います。川との関係性を保ち、共に生きる暮らしをめざす時代がやってきたと思います。
流域治水に関する情報
話題提供
今日の話題は今まで意識したことのなかった現象なのではないかな、と思います。山腹斜面に雨が降ったとき、その水はどのような過程を経て川の水になるのか。実は多様な現象が起きています。そのことは物質(例えば、投棄された汚染物質)の移動を考えるときに決定的に重要な認識になります。また、雨が降ると川の流量は増えます。増えた水はその時に降った雨水なのでしょうか。自然流域では流量が増加した分はほとんど降雨前から流域のなかにあった地中水なのです。もちろん、都市化された流域では雨水が直ちに流出してきます。これらのことを知り、川との会話を楽しんでください。
山地斜面のイメージを持とう
引用文献
USLE式による土壌侵食量の計算と、放射性セシウムの移行の計算(PDF)
USLEはUniversal Soil Loss Equation、すなわち土壌侵食量を経験的に求める式のことです。 こういうときにAIを使って検索してみよう。斜面で発生した土砂は斜面の傾斜方向に移動します。それをモデルの中で再現します。放射性セシウムが流域から流出するのは、河道近傍で飽和地表流が発生したときです。斜面をゆっくり移動する放射性セシウムが河道に到達すると一気に流出するという現象をモデル化しました。ここに、水流発生機構における科学的知見が活かされています。
シミュレーションにおいては再現する現象をしっかり理解することがまず必要です。計算技術だけでなく、水文学の基礎知識が試される場です。モデルと水文学の二刀流を目指してください。
森林には歴史がある。人間との関わりのなかで現在の森林が形成された。歴史を知ることにより、未来における人と森林の関係性について考えてください。そのとき、森林の機能に関する科学的な成果を知った上で、人と森林の関係がよりよくなるにはどうしたら良いのか、考え続けましょう。
水木しげるの幸福論
講義の冒頭、大谷翔平が活躍したドジャース優勝のニュースに引っかけて水木しげるの幸福論を紹介しました。ここに再掲します。「成功や栄誉や勝ち負けを目的にことを行ってはいけない」「しないではいられないことをし続けなさい」「他人との比較ではない、あくまで自分の楽しさを追及すべし」「好きの力を信じる」「才能と収入は別、努力は人を裏切ると心得よ」「怠け者になりなさい」「目に見えない世界を信じる」。 著作は文庫本で読めますが、お金もかかるのでWEBを紹介します。 久坂部羊の「冴えてる一言~水木マンガの深淵より~」です。タイトルをクリックしてジャンプできます。
【追記】老人の思想を理解するためには、老人が生きた時代を知る必要があります。水木サンは、悲惨な戦争を体験した後、皆が貧乏な時代から高度成長の時代への移り変わりを経験しています。このことは思想を理解する重要な観点です。みなさんの生きている現代がどんな時代なのだろうか。現代における幸福論は水木サンの時代とは異なるかも知れません。じっくり考えてみてください。
野口陽一、歴史としての森林影響研究Ⅰ~Ⅴ、水利科学(1984,1985)
研究とは“新しい知識の生産”であるので、新しいことを主張する必要があります。そのためには分野における研究の歴史を知る必要があります。とはいえ、最近はジャーナル(の数と蓄積)が増えすぎて全てを網羅することが困難になっています。しかし、ネット上に知識が集積され、簡単にアクセスできるようになったことは進歩だと思います。J-STAGEを活用してください。新しい論文から読み始めて、過去に遡る、その際に重要な研究者を知り、キーワードにして検索すると分野の蓄積に意外と簡単にアクセスできるかも知れません。
脱線して、2024年11月22日に千葉県旭市で講演した「わたしたちと川ってどんな関係があるの?」を紹介しました(クリックしてジャンプ)。水文学は非常に幅広い内容を含みます。これも水文学の一部であり、科学としての水文学の成果を現場で実践するための営みといえます。
水と人の環境史 琵琶湖報告書-鳥越皓之・嘉田由紀子編、御茶の水書房(1984)
水文学には理工系だけでなく、社会系からの系譜もあります。日本の環境社会学をルーツとする水文学の礎を創った書籍を紹介します。少子高齢化、人口減少、低成長の時代は理工系よりも、人社系の水文学が社会に必要な分野になるのではないかと近藤は考えています。環境社会学や民俗学といった分野が扱う“水”についても勉強するとおもしろいと思いますよ。
人文社会系では著書が重要な業績となりますが、その評価は書評を通して行われるという習慣があります。著者らは書評に対して返答します。論文数といった数値化された指標では人社系の研究の評価は困難だからです。みなさんは理系の意識があると思いますが、こんな世界があることを知っておきましょう。
水分子を構成する1Hと16Oには2H、3Hおよび18Oという同位体が存在し、水分子を構成しますが、それは水にラベルをつけることになります。同位体の存在比は気温や降水量といった気象要素によって変わるとともに、もとは降水である地下水は涵養時における気候を反映しています。それは地質時代に遡ることもできます。さて、水の同位体組成を調べると何がわかるのでしょうか。
参考URL
水循環に関する素過程を学んだ後は、世界の様々な地域の特徴について学んでください。物理は自然現象を理解するために必要ですが、物理だけでは現場の水文現象を理解することはできません。地域の地理的特徴を知る必要があります。
参考文献・資料
湿潤地域について学んだ後は、乾燥地域の特徴と水循環について学びましょう。湿潤地域と乾燥地域の特徴が理解できたら、世界各地の水循環について調べてみましょう。
近藤の連絡先は kondoh@faculty.chiba-u.jp(半角にしてください)