ハイラティー アリフ君 日中科学技術交流協会中国人留学生奨励賞受賞
2017年1月11日
この度,日中科学技術交流協会から2016年度中国人留学生研究奨励賞を授与されましたことを,非常に光栄に思うとともに,日中科学技術交流協会会長有山正孝先生および協会の皆様,および選出して下さった関係者の方々に厚く御礼を申し上げます。そして,熱心にご指導くださった千葉大学理学研究科環境リモートセンシング研究センター近藤昭彦先生,建石隆太郎先生,日頃から私を支えてくれた家族に大変感謝しております。
私は中国西北部の新疆ウイグル自治区ウルムチ市生まれで,2009年7月に中国四川大学を卒業後,2010年4月に来日し,千葉大学に研究生として入学しました。その後,2012年4月に千葉大学理学研究科の修士課程に入学し,2014年3月に修士課程を修了した後,同年の4月に千葉大学理学研究科の博士課程に進学し,2017年3月に学位取得の予定となっております。
私が日本に留学に来てあっという間に7年間が過ぎました。日本でのこの7年間は私の人生の中で一番貴重な時間となっていると言えます。なぜなら,私は日本で学業以外に家庭を持つことができました。妻も来日して私と一緒に頑張って,千葉大学の教育研究科の修士課程を修了しました。それと共に2014年10月に私たちの宝物の長男が生まれ,元気に育っています。今年の3月,私が博士課程を修了する時期に次男も生まれる予定であり,二重の喜びを楽しみにしております。私たちのような異国で頼りがない留学生でも学業を続けながら,子育てすることもできたのは,やはり日本のようなすばらしい国があるからこそだと思っております。我が家の子供たちの生まれ故郷となった日本の皆様に対する感謝の気持ちでいっぱいです。
私の父は新疆師範大学の教員で,18年前に,日本の近畿大学に一年間滞在する機会がありまた。父は帰国後,高度に発展している日本について家族の私たちや周りの人々にたくさんの話をしてくれました。話の中で最も印象的だったのは日本人が礼儀正しく,優しく,勤勉であることや日本の環境がきれいなことなどでした。私は父親の話に深く感動し,日本に対して親しみや憧れを持つようになりました。そして,将来チャンスがあれば,ぜひ日本に留学し,日本を自分の肌で感じ,自分の目で確かめることで,父親の口から聞いたすばらしい日本の本当の姿を知りたいと思いました。それが私の日本留学のひとつの動機となりました。18年前の父親の来日が我が家に強く影響し,私たち三代の日本という素晴らしい国との繋がりに結びつきました。
私は博士学位を取得した後は,日本でポスドクの研究員の仕事を目指していますが,数年間の研究経験を得た後,故郷である新疆に戻って,大学の教員になるつもりです。新疆の大学の研究・教育活動に取り込んで行く以外にも,自分の留学経験を活かし,日本と新疆の大学の交流活動を広めるために,貢献できたら光栄に思います。
今回受賞対象となった研究テーマは「衛星画像を用いたデブリ氷河観測の新手法」です。以下では,主な研究成果につきまして簡単に紹介させて頂きます。
氷河の動態は,気候変動と密接に関わっています。氷河の融解により供給される水は,海水面上昇の要因のひとつとされ,沿岸地域の脅威となります。一方で,流出する淡水は農業をはじめとした人間活動において重要な水資源となります。氷河の動態を把握する際,氷河末端ではデブリ(岩屑)が氷河を覆うことで,末端部の挙動(特に氷河の融解)に影響を及ぼし,マクロスケールの気候変動に対する氷河の応答の検出を困難にしています。従って,デブリに覆われた氷河(以降,デブリ氷河とする)のマッピングは気候変動,水資源の調査のために重要であり,広域のデブリ氷河の観測には衛星画像を用いたリモートセンシングによるデブリ氷河マッピングが有効な手法となります。しかし,光学センサーを用いる際は,氷河上のデブリと隣接した谷部の岩が酷似しているため衛星画像からのマッピング精度に影響を及ぼします。そこで,本研究では,衛星観測を利用した広域でのデブリ氷河マッピングに関する先行研究の手法を改良しました。本研究で高解像度画像を用いたマニュアルによるマッピングよりも高速な半自動の処理の手法を開発できました。
本研究では,いずれも無償データである光学衛星Landsat TMの夏季の画像と衛星観測による標高データASTER GDEMを研究対象地のデブリ氷河マッピングに用います。加えて,本研究の手法から得られたデブリ氷河マッピングの精度検証のために,同時期の高解像度衛星画像であるALOS PRISM画像とGoogle Earth™を用いたマニュアルマッピングの結果を用いました。加えて,合成開口レーダー(SAR)のペアの画像を使用した干渉SARによる,氷河上のデブリの変異の検出に基づくデブリ氷河マップも検証に使用しました。
本研究において,デブリ氷河の外形図は主に,本研究で開発した新たなバンド比画像の閾値による処理と,形態計測解析の二段階の処理から作成されます。より精度良く氷河上のデブリと氷河周辺のデブリおよび氷部分を区別するために,先行研究におけるバンド比画像(TM b4/TM b5)と熱バンド(TM b6)の組み合わせによる,波長および熱的特徴に基づいた新たなバンド比画像(TM b6/TM b4/TM b5) を用います。まず,氷河上のデブリとそれ以外のデブリ被覆のない部分を新たなバンド比画像の閾値を用いて分類します。ここで,日陰部分と高標高域に存在する周氷河のデブリと氷河上のデブリの分類結果には誤分類が含まれます。これは周氷河のデブリが日陰部分と高標高域に存在し,低温となることに起因すると考えられます。しかし,本研究はこれらの誤分類を,デブリの形態計測解析を組み合わせることで除去可能であることを発見しました。形態計測解析の段階で,傾斜,縦断曲率,平面曲率は標高データASTER GDEMから計算されます。それらをISODATAクラスタリングによって3種類のクラスに分類します。分類により抽出されたデブリ氷河のラスタデータをベクタデータに変えて,最終的に新たなバンド比画像の閾値による結果と形態計測解析の結果と組み合わせることによりデブリ氷河の外形が得られます。
先行手法による氷河マッピングは厚いデブリによって覆われている氷河に適用する際や,氷河末端領域から氷河でない領域への遷移が緩やかである時に失敗します。また,光学データと熱赤外データを統合することで,マッピングに成功する場合がありますが,これら両方のデータセットのためには雲のない画像が必須で,広域のマッピングを考えたとき,その手法の実用可能性を減少させてしまいます。また,1つの氷河で適用した手法を他の地域,他の氷河に適用すると失敗します。我々の対象地域の一つ(Yengisogat glacier)において現存の統合アプローチの限界の例として,中国のKorakoram 山脈地域のShaksgam valleyの氷河マッピングに既存のアプローチを適用しましたが,Yengisogat氷河の末端領域をマッピングすることができませんでした。一方で,本研究で開発した衛星データを用いた半自動手法は厚いデブリ被覆氷河を比較的高精度でマッピングすることができました。
本研究は,研究対象地域や他地域の氷河のインベントリを作成するためのマッピング手法だけでなく,気候変動,水資源の評価,さらには海水準上昇といった地球規模の変動を議論するための重要な情報にもなります。
末筆ながら,再び日中科学技術交流協会の諸先生方,近藤昭彦先生,建石隆太郎先生,および,私を支えてくれた皆様に心からの感謝を表します。