2009年度博士課程学位審査論文公開発表会のご案内
近藤研究室・佐倉研究室の博士課程学位審査論文公開発表会を開催します。どうぞご参集ください。会場はCEReS研究棟の玄関を入り、左折、階段の前で右折した先の102教室です。
1月26日 15時開始 会場:環境リモートセンシング研究センター(共同棟1階102教室)
要旨 | 郭 栄珠 | GIS及びRS画像データによる水害の素因抽出と水害危険度評価に関する研究−韓国、洛東江流域を事例に− |
1月29日 13時開始 会場:環境リモートセンシング研究センター(共同棟1階102教室)
要旨 | ブティ モニラ | 東京湾周辺における地下水流動系と地下熱環境に関する水文地質学的研究 |
要旨 | 川越 健 | 層相および微視的構造を考慮した浸透水に対する更新統砂層の抵抗性に関する研究 |
要旨 | 斉藤泰久 | 針葉樹人工林の生育がもたらす森林の水源涵養機能への影響 〜針葉樹人工林と広葉樹林の1次谷流域の流量観測からみえるもの〜 |
郭 栄珠
A Study on the Extraction of Flood Risk Factors and Risk Assessment of Flood Disaster Using GIS and RS Image Data; The Case study in Nakdong River Basin, Republic of Korea.
GIS及びRS画像データによる水害の素因抽出と水害危険度評価に関する研究
−韓国、洛東江流域を事例に−
韓国の河川環境の大部分は浸食平野を構成する大陸の性質を持ち、豪雨時の洪水流出時間が日本と異なる。このことに基づき、本研究では洛東江流域(200kmスケール)を対象として水害に対する素因分析を行った。水害脆弱指標モデルを作成し、流域の河道形状に関して水害環境の特質を明らかにし、具体的な対策事例について、その水害軽減の有効性を統合的に評価した。また、衛星リモートセンシングとGISを利用した浸水可能性地域の判定については、浸水履歴に基づいて、地形・地質、地形分類、土地利用を定量的に分析した。定量的な素因分析する為には、まず、GIS基盤データによって、局地的な水害リスク素因、水害脆弱性指標(IVI : inundation vulnerable index)、河道通水能(FC: flow capacity)、表面流抵抗エネルギー(FR: flow resistance)、氾濫域標高(REM: relative flood area elevation model)、地形分類(MLC: micro-landform classification)、土地利用(LU: land use)を抽出した。次に、各素因を数値化及びカテゴリー化し、それを浸水可能性に対する正規化数値モデルに適用した。そしてその数値モデルを、流域中、一級河川を本流にしている合流点14ヶ所に当てはめた結果、浸水可能性が最も高い合流点が明らかになった。その合流点からカテゴリースコアの算定基準を設定し、本流に対する支流の氾濫可能性が高く、内水氾濫も起きる水害に対する脆弱性を空間的に検討した。それに基づき浸水脆弱性(vulnerability)流域マップを作成する事とした。
ブティ モニラ
Hydrogeological Study on Subsurface Thermal Environment and Groundwater Flow System around Tokyo Bay川越 健
東京湾周辺における地下水流動系と地下熱環境に関する水文地質学的研究
Subsurface temperature measured in boreholes can be used as a tracer for groundwater flow because groundwater temperature is controlled by both heat conduction and heat convection due to groundwater flow. This study is intended to understand the characteristics of the regional groundwater flow systems, subsurface temperature distribution, and make clear the effects of sea level change on thermal environment around the Tokyo Bay area, Japan. In this study, measurements of groundwater temperature profiles and hydraulic heads were carried out in 119 observation wells around the Tokyo Bay. The observation results show that temperature distributions are high in the western part of the bay along the Paleo-Tokyo Rivers. Hydraulic heads are relatively low around the high temperature area, and temperature-depth profiles shows the effects of groundwater discharge.
Three-dimensional numerical simulations of subsurface temperature and hydraulic head distributions were carried out in two cases (Paleo and Present Conditions) using a computer program for simulation of multi-species solute and heat transport (SEAWAT Version 4) with Argus ONE as the platform in order to compare the simulated results with the observed field data.
The simulated result in the Paleo condition agrees well with the field data. High subsurface temperature distribution observed along the Paleo Tokyo Rivers is the effect of upward groundwater flow. These facts suggest that the regional groundwater flow systems in the Tokyo Bay sedimentary basin is still influenced by the topography of the Paleo-condition due to the sea level change.
層相および微視的構造を考慮した浸透水に対する更新統砂層の抵抗性に関する研究
砂質土地山におけるトンネル掘削では、地下水浸透力に対して掘削面に分布する砂層の抵抗力が小さい場合、掘削面の崩壊が発生する。浸透水に対する砂層の抵抗性については土質工学の観点から多くの研究が行われており、粒度組成、密度に関係する物性や地盤の固結程度と関係することが明らかにされている。これらの物性は層相や地層の成り立ちと密接な関係にあると考えられるが、地質学的な観点からの研究はなされていない。そのため、層相などの相違が地下構造物建設時の地盤の工学的な解釈に反映さない場合がある。そこで、本論文では更新統の砂層を対象に、層相と浸透水に対する砂層の抵抗性の関係および地層の形成に関わる堆積環境や続成作用が抵抗性におよぼす影響を明らかにするために、露頭などでの層相観察や乱さない試料を用いた室内土質試験、試料の微視的構造の観察およびトンネル建設時に得られた物性値の統計解析を行った。その結果、浸透水に対する砂層の抵抗性は堆積構造とは必ずしも関係しないが、堆積物の分級の程度を支配する堆積環境や続成作用の結果である膠結の程度に支配されること、また浸透水に対する砂層の抵抗性に関わる物性値のばらつきの程度は層相の違いを反映しており、堆積環境の影響を強く受けることを明らかにした。さらに、これらの結果から、層相の相違を考慮した地下構造物建設時の事前地質調査の考え方や浸透水に対する砂層の抵抗性をトンネル掘削面で土壌硬度計を用いた簡易な計測により推定する手法を示した。
斉藤泰久
針葉樹人工林の生育がもたらす森林の水源涵養機能への影響
〜針葉樹人工林と広葉樹林の1次谷流域の流量観測からみえるもの〜
ほぼ同一の流域面積と表層土層の構成を持ち、樹種だけが異なる青梅市成木川最上流域の2つの1次谷流域で観測されたハイドログラフから速い流出水を分離し、速い流出水の発生機構と流出特性を比較検討し、針葉樹人工林の根系層が短期の降雨流出特性に影響している降雨流出概念モデルを提示した。新たな流域特性指標として「流域平均浸透能」を定義した。流域平均浸透能は、全雨量から速い流出水量を差し引いた水量を降雨継続時間で除した値であり、値が小さいほど降雨が流出しやすいことを示す。流域平均浸透能により流域からの水の出やすさを説明できることを確認し、他流域での適用を検証するため狩野川大仁上流域の複数地点の観測ハイドログラフから流域平均浸透能を求め、複数の異なる流域間の流出特性や経年的な流出特性の変化の検討に利用できる流域特性指標であることを明らかにした。また、針葉樹人工林流域におけるハイドログラフの減衰が広葉樹林流域よりも大きい特性は、山体の水文地質構造の影響を受けているためであることを示した。これらの考察から、広葉樹林流域と針葉樹人工林の流出特性を比較して、針葉樹人工林の成長に伴う根系層の発達が短期の降雨流出特性を変化させ、長期の降雨流出特性には山体地層の水文地質特性が影響し地形分水界を超えた地下水流動が影響しており、針葉樹人工林の根系層の成長により、流域特性が経年的に変化する降雨概念モデルを示し、水源涵養機能への影響を考察した。