日本リモートセンシング学会春季学術大会 2008.5.22-23
水資源・食糧資源とリモートセンシング
日本リモートセンシング学会春季学術大会のSICE共同セッションにおいて表記のタイトルで講演を行ってきました。実に深い課題でありますので、何を話したら良いか迷いもあったのですが、議論のためにここに掲載しておきます。
最後は時間切れで、一番重要な主張がありまいになってしまったかも知れません。それはリモートセンシングは、@政策対応型研究、A問題対応型研究のふたつを目指すべきであるという主張。もちろん、サイエンスは研究者セクターが自由に推進すればよい。
@は日本リモートセンシング学会誌27巻4号でJAXAの堀川理事が述べています。私は例えばこんなことが考えられると思います。IPCC等の政府間協議に日本代表が持つコンテンツを提供する(これは一部達成されています)、とか、WTOで交渉する際に日本代表に各国の食糧生産の現状に関する情報を提供する、といったこと。先の交渉で日本は食糧輸出制限に対するルール作りを提案し、却下されたわけですが、各国の今年の作柄情報はあったのだろうか。今年の華北は雨が多くて小麦の作柄が良いそうですが、日本代表は知っていただろうか。リモセンでわかるはずです。こういう裏情報が外交では力を発揮すると思うが、いかがだろうか。
Aは異分野協働の知識生産(モード2サイエンス)により、問題解決を共有する態度。個々のディシプリンや技術の役割は相対化されますが、自分の優位性をその狭量さによって主張するのではなく、協働を目指して問題解決を進める中でリモートセンシングの価値を高めること。そのためには、他分野に画像を見ていただく仕組みが必要と主張しました。“画を見ればわかる!”。
今回の課題に関する準備の中で行った議論を通じて気がついたことは、リモートセンシングの (i) 実利用と、(ii) 役に立つ、ということは違うということ。行政の中で実利用として認められるには、ビジネスとして利益を生まなければならないのだそうだ。
私はこれまで日本におけるリモセンの実利用第一号は、1970年代に故大矢雅彦先生がバングラディシュの架橋地点選定にランドサット画像を利用したことだと考えていましたが、これは“役に立ったこと”であっても、“実利用”とは呼ばないようだ。
“役に立つ”ことを重要と認める態度こそ、日本の行政やリーダーシップに欠けている態度ではないか。市場経済に毒されない態度こそ、国家の品格を高める重要な態度ではないだろうか。
日本の食糧自給率39%をどう考えるか
久世先生からの質問:市場経済は冷たいと考えているので、もっと上げるべきであると答えました。日本はアメリカからの輸入が多いが、アメリカの農業は市場経済の中の産業。市場原理により動き、情けでは動かないのではないか。外交で情けを醸成すれば良いのだが、日本は苦手。だから、食糧自給率を上げるべきと考えました。ただし、39%はカロリーベースであり、海外に依存しているのは圧倒的に飼料ではないか。日本は米は自給率ほぼ100%であり、野菜も自給は可能だと思う。ソ連邦崩壊後の経済制裁の中でキューバのハバナは野菜を自給しています。後は、飼料用穀物を何とかすれば良い。米で何とかならないか。いずれにせよ、グローバル経済の恩恵で食糧は十分安い。ただし、安定でないことがわかったのだから、日本はWTO、FTAの弊害も十分考慮に入れた対策を講じるべきだと思います。
中国式温室の意味
講演資料の最後に中国式温室の写真を使いましたが、意味がありました。最近、河北でもこういう温室をよく見かけます。野菜の生産が増えているということ。その理由が餃子事件でわかったような気がします。有名になった天洋食品は石家庄にありました。餃子の材料の野菜は近郊から仕入れているのかも知れません。小麦の収益率が低くなっている昨今、農家にとってよい収入源になると思われます。しかし、2006年に日本が施行したポジティブリスト制により、残留農薬検査が厳しくなり、仲買人は零細農家から野菜を仕入れなくなったそうです。そこで、離農する農家も増えて、食品工場に就職する例もあるとのことです。問題というのはいろいろな要因が複合的に作用して顕れます。決して単純なステレオタイプで判断してはいけないことだと思います。
注)記述の中には近藤の主観も含まれています。論文ではありませんのでご注意ください。