NPO法人日本地質汚染審査機構イブニングセミナー 2024年7月5日

ダイナミック地形学試論-下総台地の水文地形-

講演資料(PDF) (追加資料も入れました)

現役を退いた今、厳密な科学の方法論に囚われることなく、自由に仮説を構築しようと思う。それが市民科学の醍醐味だと思う。若い頃から考え続けている課題は、ふるさとである下総台地の地形の形成過程。平らに見える台地もたくさんの段丘面や微地形がある。その形成には古東京湾以来の12万年の歴史の中で繰り広げられてきた水循環と地形、地質の相互作用が関わっているはずだ。地形は12万年の間、不断に変化し続けている。そのような地形の捉え方として「ダイナミック地形学」を考えた。それは「水文地形学」といっても良いかも知れないが、空間軸、時間軸の中で様々な素過程が相互作用する営みとしてダイナミック地形学と呼んでみようと思う。

ダイナミック地形学という用語をWEBで検索してみたが、どうも分野としては確立していないようである。もっとも水文地形学といっても事足りるかも知れないのでたまたま使われてこなかったのかも知れないが、水文地形学には“時間”の概念は未だ希薄である。唯一ヒットしたのが日下雅義先生による「人文地理学と地形研究」であった。雑誌「人文地理学」に掲載された1969年の展望論文である。日下先生によると、ペルチャー(L.C.Peltier)は地形学のアプローチの仕方を「Descriptive Geomorphology」と「Dynamic Geomorphology」に二大別して論述しているという。ペルチャーによる Dynamic Geomorphology はプロセスの研究に関する分野であり、これには fluvial process, solution process, marine process, glacial process, periglacial process, eolian process, volcanic process などが含まれるという。
原典にあたっていないので不明なのであるが、ペルチャーの Dynamic Geomorphology には様々な素過程の相互作用と、“環境”が変化し続ける地質学的な時間の中で不断に変化し続ける地形、という概念はあったのだろうか。もし、ダイナミック地形学が新規性を持つとすると、この点にあると思われる。
[追記]その後、Dynamic GeonorphologyはStrahlerによって唱えられたことを知りました。StrahlerによるとDymamic Geomorphologyは「流域をOpen systemの場としてとらえ、物理学とくに力学と流体力学の原理にもとづいて地形の形態を論じようとするもの」だという(奥田節夫、「物理地形学と災害科学の関連について」、京都大学防災研究所年報第13号A、1970)。「具体的には地表を構成する物質がその変形、移動をもたらそうとする力(Stress)の作用を受け、その物質の性質(Property)によってさまざまな歪、破かい、流動が起りその結果として地形変動が生じる過程を物理的に追求するもの」とある。この場合でも、地史的な時間の中で、地質プロセスと水循環との相互作用として不断に変化し続ける地形、という概念はあったのかどうか。現段階では不明である。