外部評価に対する個人的な意見

評価の結果を今後に生かすためには、評価に対する意見をきちんと述べて、議論をすることが必要だと思います。残念ながら、今のやり方ではなかなか議論する機会が持てないため、今回の外部評価に対する私個人の考え方を簡単に述べたいと思います。ご意見お待ちしております。

■CEReSのあり方に関する考え方

CEReSのあり方についてはバックグラウンドの違いによって様々な考え方があることがわかりました。私はこんな風に考えています。

戦略的研究...................各省庁、地球フロンティア、NASDA等
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複合(学際)的研究..............CEReS等の大学付置研究所はこの部分を目指す
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基礎研究(ボトムアップ型研究)........学部・研究科は既存の学問分野を維持・発展させる

■CEReSの研究方向に関する考え方

環境リモートセンシング(RS)の環境はターゲット、RSは手法であることを認識する。その上で複合(あるいは学際)的研究を目指す 。現CEReSにおいては地球環境科学、応用科学、情報科学、センサーが4つの柱になる 。ここで地球環境科学は気象学・気候学、水文科学、地形学、地球物理学、等の基礎科学、応用科学とは農学、土木工学、水文・水資源学、等の応用分野を指す。これらの分野が複合し、さらに学部、研究科との交流を促進することによって、複合(学際)領域としての環境リモートセンシングの発展が可能となる。
CEReS独自の大規模プロジェクトに対する要望が多かった。それに対して私は、CEReSは科学に対するRSの具体的な貢献を目指して既存の科学的プロジェクト、例えばIGBP、IHDP、GEWEX、等の中で役割を担うべきかと思う。科学研究の中でRSの役割を確立させるのがCEReSの使命であろう。形だけのリーダーシップにこだわってもいい研究はできない。CEReSの目指すものは”複合”であり、その中でRSの役割を確立させることであるので、特定の解くべき課題を持つ研究プロジェクトに対しては側面支援がCEReSの担える役割であると思う。一方、CEReSが進めている「リモートセンシングによるアジアの環境変動モニタリング」および「植生リモートセンシング」は、CEReSが環境科学の中で責任を果たすことができる重要かつ最適な研究課題であると考えている。
内外の研究動向の認識が必要:まずは、”地球環境問題”に対する認識の移り変わりを素早くキャッチする必要があるのではないだろうか。私の担当したRS/GIS応用研究グループに対して”ローカルに終わる危険性云々”という意見をM先生から頂いた。しかし、けっしてローカルのみに関心を持っているわけではない。グローバルとローカルの関係については古くから議論されていることであるが、時代によって移り変わりがあるように思える。80年代から90年代初頭まではグローバル全盛期であり、リオサミットが一つの頂点であった。 そのころの地球環境研究の最大の成果は地球が複雑な対象であることが改めて認識されたことではないだろうか。気候変動に対する陸域(植生、土壌水分)の重要性が認識されたことも一つの契機であり、ローカルの重要性に対するコンセンサスが生まれた。その結果、地域固有の現象の理解に関するプロジェクトが立ち上がったのが90年代である。GEWEXに関連した地域研究(GAMEもその一つ)が世界各地で行われるようになり、炭素循環分野でもFLUXNETがIGBPのアンブレラのもとで世界各地で立ち上がった。ローカルな現象認識を重視する研究方向は今後も続き、いずれGCMも含むグローバル研究に成果がフィードバックされる時期が来る。よって、グローバル研究の中に位置付けることのできるローカル研究が重要であり、グローバルだけが重要なわけではけっしてない。逆にローカルがわからなければグローバルもわからないし、人間の生存に対して責任ある成果をだすことはできない。単にかっこいいだけの研究は21世紀にふさわしくない。21世紀は研究の成果に対してより具体性が要求される時代であると思う。
私の立場から:最近、解決すべき重要な課題として水問題がクローズアップされてきている。では、水問題は地球環境問題だろうか。今までの認識ではLocal Issueであったと思う。しかし、日本の食糧自給率が下がり(欧米では自給率を上げているのは驚きである)、輸入に頼らざるを得ない状況は現在の政策上さけられない。食糧生産が水を必要とする限り、食糧輸入と水輸入は等価であるから、地域の水資源配分問題に対して日本が海外から非難を受ける可能性もある。日本が水問題で国際貢献をしなければ、国際世論で避難されることも必至である(学術会議における高橋氏のシンポジウムの講演内容から引用)。よって、国境を越えた問題という観点からして水問題も21世紀型の地球環境問題である。また、水分野の動向(これも受け売りですが)としては、UNESCO、ICSU、IGU、IAHS等の政府機関、NGOの主要ポストを日本人が占めるという前代未聞の時期がやってきた。この中で、日本のプレゼンスを主張できる分野のひとつが水分野である。折しもGEWEX規模のプロジェクトであるHELP(Hydrology for Environment, Life and Policy)が提案され、具体化されつつある。これは全球で100ヶ所程度の試験流域を設定して、地球規模の比較水文学研究を行う計画であり、水分野が21世紀型の地球環境問題でイニシアティブをとるということの意思表示でもあろう。RS、GISは常に重要な手法として位置づけられている

■その他の意見

評価は全体として良好だったと思う。ただ、”地球環境学”の本質に対する議論・コンセンサス(次節参照)がCEReS、評価者の双方に不足していたことが問題だったと思う。コンセンサスの結果を強く押し出せば、CEReSの方針について問題点を指摘されることも少なかったと思う。ただし、この”地球環境学”の内容に対するコンセンサスの形成は困難であることも事実である。個々の研究者の分野の基盤に対する評価に繋がるからである(狭量な見方であるが)。これをうち破るためには、常に主張に具体性を持たせることを意識することが研究センターとしては重要ではないか。例えば、華北平原の水文観測・モニタリングが如何に水問題に貢献するのか、バイオマスの評価がどのように食糧問題と関わるのか、土地利用図を何に利用するのか、どんな問題の解決のために大気補正を行うのか、等々。これがM先生の言われる戦略計画に繋がると思う。また、ここが研究センターであるところの所以に繋がる。さらに、この議論が進めば必然的にCEReS内に強力な研究リンクが形成されるだろう。ただし、研究効率が最も高いのは数人のグループであると思うので、必ずしもCEReSが一致団結して一つのターゲットを目指す強い必然性もないと思う(目指すべきという意見が多かった)。最大の障害は異分野に対する無関心であり、互いの分野を尊重しあう姿勢が必要である。ここから複合(あるいは学際)が生まれる。
地球環境学とは:環境科学は分散型、積み上げ型の学問であると思う。そのため、”各個研究の寄せ集め”的な印象も与えやすい。だからこそ、個々の研究についてその分野の発展段階における位置付けをはっきり主張する必要がある。個別研究の集合でも常に総合化を意識した研究が地球環境学の姿ではないかと思う。ただ”かっこいい研究”を目指すのは筋違いである。T先生の”あまり他を気にせず、信念をもって進み、見かけの業績ではなく本質的な成果を目指すという勇気も必要ではないか”に重要な点は言い尽くされている。ただし、これは相当な勇気が必要であるが。
CEReSの今後については、現在の方向を強化することでよいと思う(コアプロジェクトは前記の”アジアの環境”と”植生RS”)。ただし、個人研究とCEReSの方針に則った研究の”両方”を各自の責任で行う必要がある。”個人研究”について辛口のご批判を頂いたが、個人研究はCEReSの研究方針、および将来計画の中に位置づけるように努力すればよい。ここから複合的研究が生まれていくからである。ただ、位置づける努力を怠っている研究、位置づけられない研究は優れた研究でもあり得るが、個人の責任で行う個人研究であろう。これがT先生の指摘に対する私の考え方でもある。
O先生からは”新しい研究を創造すること”、がまさに大学の使命である、という意見を頂いた。戦略的研究(本論のトップを参照)は誰でもそうだろうなと思っていることを、強力なリーダーシップと予算のもとで行う研究であり、省庁の研究機関に任せればよい。もちろん、大学がインテリジェンスを提供するのはよいが、やはり”創造”が大学の使命だと思う。そして、”創造”はほとんどの場合、”複合”、”学際”、”新しい組み合わせ”、から生じる。
O先生から(データについて)利用実態を十分把握して、これに対処しようという強い姿勢がセンター側にあるか、疑問”、はその通りと反省している。新規顧客を開拓して、積極的にデータを売り込む姿勢が必要。そのためには各研究者の専門分野を越えた視野の広さが必要であり、”複合(学際)”を目指すCEReSに求められていることであると思う。
O先生の”共同利用について”真の意味での共同作業が行われているのか疑問”、はその通り。共同利用のあり方について応募者にも2つの考え方があり、徹底していない。一つはCEReSの研究を補強するもの、二つめはサービス。はっきりさせる必要があるが、そろそろ完全なサービスはやめてもいいと思う。”センター独自で行う研究を充実させることであろう”、はその通りであると思う。